朧月夜のとりあえずヤってみよう

版権作品の二次創作がメイン。小説サイトに投稿するまでもない作品をチラ裏感覚で投稿します。

TSして藤丸立夏になった男だが、好き勝手にやってたら某ぐだ子みたいになってた件5

五回目。
今回は5千字程度しかないです。
第七の特異点からの話になりますが、ここから終章までは現地での描写を入れていく流れになります。
なのでこの先の部分も書けてはいるのですが、繋がり的に切りました。
またそのうち投稿します。


――――――――――――――



「…………ふぇぇぇ」
「なんだ情けない声をだしおって。息巻いて来た割には早々にコレか」
「いやね、知ってた。わたしは所詮人間だなぁってね……でもっわたしは痴女になんか屈したりはしないっっ!」
「誰が痴女か。なるほど、まだ余裕があるようだな。さあ立てすぐ立て。お前が勇士になるんだよ!」
「むぅ~りぃ~……」


 結果から言えば豹は倒せなかった。
 ロマンに啖呵を切って、肩で風を切ってトレーニングルームに戻ったわたし。
 レオニダスさんと組手をしていたスカサハさんに再度の挑戦。
 うん、10秒持たなかったよ……。
 というかスカサハさん、一切手加減してくれないからね。


 いやしてはいる。しないと死ぬからね?
 クーフーとの組手を何度も見たけれど、何合か槍を合せてさ、クーフーってすぐ調子に乗るからいらん事言って挑発する訳。
 でも彼女は大人だから大概はスルーするんだけど、年齢に関連する事柄だけは即座に反応するんだよね。
 クーフーってば調子に乗ってたまにその地雷を踏み抜く。
 結果どうなるか? あんだけ強いクーフーが漫画みたいに即堕ちするんだから。


 何というかついランサーが死んだ! って叫びたくなる程に見事なやられっぷり。
 それくらい彼女が本気を出すとヤばいんだよ。
 だからわたしと言う人間に合わせた加減はしてくれるんだけど、手は抜かないの。
 槍の振る速さとかは人間レベルに落とすってだけで、普通に当ててくるんだ。
 知っている? 本気で頭とか殴られると目の前が真っ赤になるんだよ一瞬。
 そしてふわ~ってなってギャグマンガみたいにパタっと倒れる訳さ。


 こっちもね、一応本気でやってるからさ、気が立ってる訳。
 何くそ負けないぞ! とか叫んだりしてさ。
 でも象牙槍を杖にして完全に腰から下はプルプル震えて動けないさ。


 そんな私を尻目にレオニダスさんが顔を逸らして肩を震えさせているのが見える。
 絶対に許さん。
 笑うなら堂々と笑いなよ!
 地味に傷つくんだからな!
 といいつつ、暴れた事で自分の心がスッキリしているのに気づいてしまう。
 結局これもスカサハさんの計算だと思うと、うん。
 くやしいなぁ……。




 ★



 ベッドの横に備え付けられている端末から管制室に集合せよとのコールが入る。
 わたしは既に起床しており、身支度も終えていた。
 多少の空腹感はあるが、我慢できない程ではない。
 生理もとっくに終わっているし、体調は万全に近い筈だ。


 ふとクローゼットの横にある姿見を覗く。
 いつも通りのわたしだ。
 最近はスカサハさん達とのトレーニングのせいか、顔がほっそりした気がする。
 わたしは愛用のゴムで髪をサイドアップに纏めた。


 べつにポニーテイルでもいいのだが、後頭部に突起があるとレイシフトから戻った時に痛んだりするのだ。
 過酷な特異点。いつだって楽に解決できたことなんて無かった。
 常に薄氷を踏む様な綱渡り。
 結果的にわたしは今ここにいて、何か一つ選択肢を間違えていれば死んでいただろう。


 だから願掛けの意味も込めてサイドアップにするのだ。
 戻った時に痛まない様に。
 必ず戻ってこれる様に。


 鏡の中の自分を睨み、パンっと両手で頬を張る。
 負けるな。したり顔で阿呆な事を真面目に頑張るあいつらに負けるな。
 懸命に日々努力する事を放棄して神になったつもりの連中になど負けてたまるか。


 卵を買った後で別な店では10円安く売っていた事に気付いて嘆く主婦をお前らは笑うか。
 彼女らは、或いは彼らは尊くないと言うのか。
 そう言った日々の、ただありふれた日常を送る苦痛を知らずに、何を知った風に、勝手に絶望しているのか。


 わたしはそんな思いを反芻し、怒りを、殺意をみなぎらせる。
 こうでもしなきゃ正気じゃレイシフトなんか出来やしない。
 わたしを先輩と慕い、自分は貴方の盾なのだと勇ましく叫ぶ少女のために、絶対に特異点で弱音は見せてはいけないのだ。
 吐き気がして糞を垂れ流しそうになっても顔は笑っていなきゃいけない。


 わたしにはそれしか出来ないのだから。
 わたし以上に恐怖しつつも、わたし以上に強い彼女の心を折らないために。
 あの子がわたしを先輩と呼ぶ以上、後輩に慕われるわたしでいよう。


「ああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」


 わたしは腹の底から思いっきり叫び、そして部屋を出た。
 もう大丈夫だ。
 頼もしく笑っているいつもの藤丸立夏にわたしは成った。



 ★



 司令室に入るといつものメンバーが待っていた。
 一般職員の人達の顔に浮かぶのはどういう表情をしていいか分からないという複雑な物だ。
 そうか、やっぱりか。
 思った通り第七の特異点に赴く準備は整ったのだ。


 彼らには計器の前にいるしかできない無念さと、女の身であるわたしに頼るしかないという罪悪感。
 だがここまで苦楽を共にした戦友として、或いは同志としての強い励ましの想いもある。
 それら全てが混ざった結果、喉をつんと突いたら直ぐに号泣でもしそうな顔になっていた。


 ロマンもダ・ヴィンチちゃんも務めて勇ましい表情を崩さない。
 彼らはここで芋引く訳にはいかないのだ。
 名実ともにこのコンビが今のカルデアの精神的支柱なのだから。
 あのポンコツ、お前がちゃんとやれよなー。
 まあまだ完全に復帰とは言えないから仕方ないが。


 わたしは何というか職員さん達のそんな様子を見ていると、ふいに泣きたくなった。
 うん、この人達のためにわたしは頑張ろう。
 そう改めて再認識させられる。
 ありがとう、その複雑すぎる表情が一番わたしを安心させてくれるんだよ。
 だって、人間だもの。
 自分のエゴを通しきれない不完全さが人間なんだよ。


 わたしは彼ら一人一人に接吻をして回りたい衝動に駆られた。
 とは言えわたしのキスはそう安くは無いのだ。
 なので不安そうにわたしを見ている後輩の前に向かう。


「先輩、おはようございます……んんんんっ!?」


 そしておもむろにマシュの唇を奪う!
 舌は流石に入れないが、ふにふにのマシュの唇をはむはむしてやったわ。
 目をまん丸にしていたマシュだが、やがてくたんと腰が抜けた。


「んんんんんっ……ふう、おはようマシュ。これであと一年は戦えるわ」
「せ、先輩っ、その、いきなりの接吻はその、いけないと思います!」


 ペタンと女の子座りで拍子抜けだったマシュはすぐに我に返りわたしに詰め寄る。
 ぽかぽかと胸を叩いてくるが、余計に可愛いだけだね!
 職員さん達がガタガタッと立ち上がった。
 知ってる。みんなマシュが好きなんだよね。
 だからわたしは煽る様に彼らに向かって叫んだ。
 あの夜の帝王の様に。
 いやーこのツンデレ女王みたいな格好、一度してみたかったんだよね。
 ごめんね所長。


「はいはい、その蕩けた顔で説得力ないよ? さて職員の君たち、この天使にキス或いはハグをされた者はいるかしら? いないよねェ? この天使の唇を最初に奪ったのはこの藤丸立夏だァ!!」
「なっ……なんて事しやがる……」
「女同士で……だと……尊くはあるが、そこにあこがれもしなければ痺れもしない……」
「フハハハハッ!」
「あ、えっと、立夏ちゃん? もういいかな?」
「あ、はい。どうぞ?」


 唖然とした顔のロマンに現実に引き戻される。
 いやあごめんねロマン。
 あんな緊張した顔されても困るからね。
 せいぜい茶番であっためてあげないとさ。
 それに、マシュもどこかいつもと違う雰囲気があったしね。
 なんだろう? 緊張しているでもなさそうだが。


 そしてブリーフィングは進む。
 紀元前のメソポタミア。
 今のイラクがある周辺だ。


 ダヴィンチちゃんに向こうに持っていけと高性能マフラーを貰う。
 紀元前でも神様だろうと何でもいいよ。
 邪魔をするなら排除するだけだよ。
 いまと言うわたしたちが生きているんだ。
 それの邪魔は誰にもさせない。


 わたしはロマンに誘われていつものコフィンに身を横たえる。
 そしてやはりいつもの様に軽口を交わし、またねと言って私は目を閉じたのだ。
 怖い筈なのに、この中はいつも気持ちがいい。
 コフィンとは棺桶って意味らしい。名付けた奴をぶん殴ってやりたい。




 ★



 毎度毎度学習しないと言うか、馬鹿なんじゃないだろうかロマン。
 或いはその横にいる天才サマ。万能とは一体……。
 レイシフトした先が空中とかほんとバカ。


 マシュが無理やり宝具を展開して衝撃を相殺すると言う力技でどうにかなったけどさ。
 開幕で即死の可能性ありとか酷すぎる。クソゲーだよねレイシフトって。
 まあダ・ヴィンチちゃんの分析結果はウルク市の防御結界に弾かれたって事らしいけど。


 落ちた場所は廃墟の街並みで、そこでまごついていると空から半裸の女性が降って来た。
 見た目は可愛らしい物だが態度はヤクザみたいなもんだ。
 自分から落ちて来たくせに身体を触って不敬だって難癖をつけてきた。
 確かに勢いで然して大きくも無い胸を揉む様な形にはなった。
 けれどもこういうアクシデントが無ければ興味が沸く様な代物じゃない。
 わたしにはマシュと言う素晴らしい後輩が側にいるのだから。


 そんなひと悶着もありつつ、魔獣に襲われ幻想種に襲われ、緑色の髪に貫頭衣のエルキドゥと合流し、全員でウルク市を目指す事になった。
 その間の顛末なんか今となってはどうでもいい。
 これまでの特異点での経験を考えれば、半裸の女もエルキドゥもまともじゃないのは直ぐに分かったからだ。


 女神が同盟を組んで人類を滅ぼそうとしている。 
 それの手先が魔獣だとも。
 ご丁寧にエルキドゥが教えてくれた。
 わたしは彼にホームズと同じ胡散臭さを感じた。


 まあいい、問題はそこじゃない。
 そんな事は何一つ重要じゃない。
 エルキドゥがどこかに誘導しようとしたがふいに現れた者に阻まれあっさりと正体を現したことも。
 ローブのアナとかいう少女も、何一つどうでもいい。
 それよりも大切なのは、だ────


「野郎ぶっ殺してやるッッ!!!」
「先輩っ!??」


 そのアナと同行し自身を遭難者と名乗る白ローブの男、それが問題だ。
 どのツラ下げてここに出て来れたのだろう。
 こいつのツラの皮の厚さにはこの立夏ちゃんもハットオフだ。


 わたしの豹変に驚くマシュ。ごめんね? 驚かせて。
 ただこいつは、こいつだけは許されない。
 スカサハさんに槍を習ったのはこの日の為の伏線だ。
 ここまでの人生で苦労に苦労をして、男性の意識からどうにか女性としての意識に慣れたと言うのに。


 だが目の前でコイツを見てしまったら、そう言う一切合切が真っ白になった。
 あるのは純粋な殺意だけ。
 そうだ、こいつだ。
 わたしが俺だった時に、ここへ送りこんだ元凶は。
 しかもだ、その手段が空に向かって杖でフルスイングだ。
 こいつは絶対許してはいけない。


「喰らいやがれクソ魔術師がっ!!」
「おおっと、久しぶりだと言うのにキミは野蛮だなぁ~」


 くそが! 涼し気な表情で受け流された。
 まあ全然上達してないから当たり前だけどネ。
 スカサハさんに断言されたもの。
 お主の決意は理解したが、如何せん才能の欠片もないなと。
 悲しいなぁ……。


 わたしの渾身の象牙槍による脳天唐竹割りは、優男の杖でカキンってなって終わり。
 だが優男の微笑みはまるで私を煽っている様で怒りが増すばかりだ。
 ガルルルと威嚇をするが後輩が羽交い絞めして止めてくる。
 離すんだマシュ、こいつをどうにかぶちのめすのだ。
 おおう、そんなわたしの心を理解してくれたのか、右肩のフォウ君もフォーーーーーウッ! と威嚇してくれる。


「マシュ、直ぐにカルデアとのラインを確保して。スカサハさん達全員呼ぼう! まずはこの白いのを倒すよ!」
「先輩落ち着いてください! ま、まずはお話から。ね? そうしましょう先輩?」
「さ、流石に全員呼ばれたら困るなァ……そこのお嬢さんの言う様に、話をしようじゃないか?」
「一発グーでいかせてくれたらそうしてもいい」


 まあとにかく、わたしが騒いでいる間にエルキドゥは消えていた。
 優男いわく、ウルクの王ギルガメッシュが何とかこの地域を防衛しているが、エルキドゥが残りの市を滅ぼしたのだと言う。
 それはまああれよ。いいんだよ別に。
 そう言った説明は置いといて、


「さあ歯を食いしばるがいい魔術師」
「フォウ、フォウ」
「今後の事があるからお手柔らかにね? ほんと頼むよ!?」


 今後の事が円滑円満に進むように、まずは優男との関係改善を行う事にした。
 わたしによるグーのワンパンチ。これで手打ちと言う事になり、優男も受け入れた。
 フードを降ろしてイケメン御開帳。
 だがしかし、そんな物はわたしと言う火に油を注ぐだけだ。
 グギギと歯を食いしばる優男。
 そして渾身の力を籠めてわたしは拳を振り抜いた!


 ────────優男のボディに。
 素晴らしい感触だった。
 槍の才能は皆無だが、レオニダスさんによる基礎体力向上は続けて来た。
 魔術礼装による底上げもある。
 拳の握り方も、殴り方も習った。
 拳を決して傷めず、最大の力を出す方法を。


「ぐ、ぐえっ――――」


 ふはは。さしもの魔術師も予想しない腹パンは防げまい。
 優男はくの字に身体を折り、苦悶の表情となった。
 だがしかし、さらに追撃が優男を襲う!
 なんといつの間にかわたしの肩から飛び去ったフォウくんが、高い木の上から強襲したのだ!
 爪を目いっぱい伸ばし、体全体を錐もみ回転させながらもんどり打って無防備な優男の顔面をしたたかに打ったのだ!


「げふぁっ!?」
「ああっ!? 白い人が先輩とフォウさんの合わせ技で人としてあり得ない距離を吹っ飛んだ挙句、立ち木に後頭部を強打して名伏し難い表情で崩れ落ちました!!」
「解説ありがとうマシュ! フォウくんイエーイ!」
「フォウ! フォーウ!!」


 マシュの説明台詞に感謝しつつ、名アシストを決めたフォウくんと健闘を讃えあう。
 あれだね、フォウくんの今の攻撃は何か見覚えがある。
 ああ、あれだ。生前の中学生くらいに流行ったキン肉マン。
 あれのウォーズマンのスクリュードライバーさながらの技だったね!
 とにかく悪は滅んだのである。
 ああスッキリした。


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